放射線健康影響相談Q&A(要旨)
放射線の健康影響に関する相談に対応するためのQ&A 回答要旨
平成23年6月13日
茨城県筑西保健所長 緒方剛
本Q&Aは保健所等の職員が住民の相談に対して適切に対応することに資することを目的として、作成した「放射線の健康影響に関する相談に対応するためのQ&A」の回答要旨です。なお、問および答は現時点で暫定的に作成、整理したものであり、今後の状況の変化や知見の集積などにより修正される場合があります。
1 被ばくと健康
問1-1 事故に関連して、放射線にはどのような経路で被ばくする可能性がありますか。
答 放射性物質が大気中を拡散し、または地表面や建物などに沈着して周囲に放射線を出すことにより、外部から被ばくします。また、放射性物質を直接吸入し、または放射性物質の沈着した飲食物を摂取することにより取りこまれることがあります。
問1-2 被ばくの原因となる放射性物質には、どのような種類がありますか。
答 ヨウ素、セシウムなどの同位元素が放射線を放出します。
ヨウ素(I)131は甲状腺がんを起こします。セシウム(Cs)は人体では筋肉に取り込まれ、排尿、代謝により体外に排泄されます。ストロンチウム(Sr)90は骨に集まりやすい性質があります。
問1-3 放射線被ばくによって、なぜがんが発生するのですか。
答 放射線は細胞にあるDNAに損傷を与え、がんになり得る細胞へと変化することがあります。
問1-4 被ばく量は、発電所からの距離によって決まるのですか。
答 風向き、降雨や地面の状況などの影響を受けます。
2 被ばく線量による健康影響
問2-1 100mSv(ミリシーベルト)あるいはそれ以下のような低線量の放射線によって健康影響はあるのでしょうか、ないのでしょうか。
答 ICRPの考え方では、がんなどの「確率的影響」は、被ばく線量の増加に伴い発生率が増加し、低線量の放射線でも発生確率ではゼロないとされています。このような直線関係は、100mSvより低い領域では現段階ではデータが不足しているため証明も否定もされておらず、今後の究明が待たれます。
問2-2 ICRPが採用する確率的影響の考え方を採用する場合、集団における健康影響はどのような計算になるのでしょうか。
答 仮に人口100万人の集団が年間10mSv(ミリシーベルト)被ばくしたと仮定すると、計算上はがんなどの致死リスクは500人になります。しかし、この考え方はまだ証明されたものではない仮説です。
問2-3 日本人の二人に一人ががんになるのですから、放射線によってがんが数%増えたところでたいしたことはないと考えてよいですか。また、生活習慣によってもがんなどの疾病は増えるので、同様に考えてよいでしょうか。国立がんセンターのサイトからみて、放射線は生活習慣より低いリスクと考えてよいですか。http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/cancer_risk.pdf
答 放射線被ばくによる健康障害は、個人の選択により予防することは難しいので、生活習慣病と同一の考え方で扱うことは必ずしも適切ではないと考えます。若年者においてはがんり患の影響は高齢者より大きいと考えられます。がんセンターの表は、元データにある若年者の過剰リスクが反映されておらず、被ばく量が積算なのかも明確ではありません。
問2-4 子供は放射線の健康影響について大人と同等と考えてよいですか。
答 子供に対する放射線の健康影響は、がんのリスクが大人に比べて高いと考えられています。
問2-5 メディアなどで「この被ばく線量毎時OOμSv(マイクロシーベルト)はレントゲン検査O枚に相当し、健康影響はない」などのコメントがなされることがありますが、このような比較はできるのでしょうか。
答 放射線の線源や種類、被ばくの形態が異なり、また毎時の被ばく線量は期間に積算して換算しない限りレントゲン検査の線量などと比較することの意義は乏しいと思われます。
問2-6 事故に関連して「このレベルの線量では、ただちに健康に影響を及ぼすことはありません。」との報道ありましたが、「ただちに」とはどういう意味ですか。
答 短時間だけ被ばくしてその後に被ばくがない場合には確定的影響がないこと、100mSv(ミリシーベルト)程度におけるがんなどの影響はすぐに症状として現われずに数年後から数十年が経過してから現れること、などの意味が考えられます。
問2-7 臨床医師から、数mSv(ミリシーベルト)ないし数十mSvの放射線は医療において用いられるレベルであるから、気にしなくてよいという話を聞きましたが、このような考え方を一般人に適用することはできるでしょうか。
答 放射線被ばくは「職業被ばく」、「公衆(一般人)被ばく」、「患者の医療被ばく」に分類して評価されており、医療による効果が期待される「医療被ばく」についての評価の考え方は、健康な一般人にそのまま適用することは必ずしも適切ではないと考えられます。
問2-8 健康影響に関するパンフレットを見たところ、「安全です」「心配はいりません」と書いてありましたが、その根拠が記載されていないため不安です。
答 情報を提供する際には、情報や根拠を十分開示すること、安全なデータだけではなく危険を示唆するデータや未だ明らかとなっていない研究中の事項についてもアナウンスすることが、適切なご理解をしていただくため役に立つと考えます。
3 被ばく線量の基準と管理
問3-1 我が国や他国における放射線防護の規制は、どのような考え方(標準)に依っていますか。
答 国際放射線防護委員会(ICRP)の主勧告における考え方を尊重し、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」や労働安全衛生法などに取り入れられています。
問3-2 我が国や他国において、一般人の放射線防護のため放射線量は通常はどのレベルに規制されていますか。
答 ICRPの勧告では、一般人の被ばくに関して、通常の状況では「線量限度」を実効線量 年間1mSv(ミリシーベルト)としており、日本の規制もこれに準拠しています。
問3-3 一般人の通常の線量限度が年間1mSv(ミリシーベルト)であるのに、事故後は年間20mSvといった高い線量をなぜ設定することができるのですか。
答 ICRP勧告では今回の事故のような「緊急時被ばく状況」においては、「線量制限」の値でなく「参考レベル」が線源関連の制限として用いられ、このうち年間「1~20mSv(ミリシーベルト)以下」は 個人が直接利益を受ける状況に適用され、年間「20mSv~100mSv以下」 は、被ばく低減に係る対策が崩壊している状況に適用されます。
問3-4 学校の校舎や校庭の利用の基準として屋外の線量が3.8μSv/時間(毎時マイクロシーベルト)としているのは、どのような考え方によるのでしょうか。その場合、児童が受ける線量は年間20mSv(ミリシーベルト)を超えないのでしょうか。
答 ICRP(国際放射線防護委員会)が「緊急時被ばく状況」において定めた年間20mSv以下という「参考レベル」に基づいています。参考レベルは線源関連の制限であり、内部被ばくをも合計した場合年間20mSvを超える可能性もあります。文部科学省は5月、福島県内の学校において児童生徒等が受ける線量について当面年間1ミリシーベルト以下を目指すこととしました。ただし、他県ではこのような対応は行われていません。
問3-5 放射線管理区域とは、放射線量がどの程度の場所を言うのですか。
答 例えば電離放射線障害防止規則においては外部放射線と空気中の放射性物質による実効線量の合計が3か月で1.3mSvです。
4飲食物による被ばく
問4-1 飲料水や食品中の放射性物質に関する基準は、福島の事故後に変更はあったのでしょうか。
答 飲料水のヨウ素及びセシウムについては、これまで水質基準には定めがなく、WHOの基準では平時に10Bq/lでしたが、3月17日の暫定規制値ではヨウ素131が300Bq/l(乳児の飲用については100Bq/l)を、セシウムが200 Bq /lとされました。
食品のセシウムについては、これまで370Bq/kgでしたが、3月17日の暫定規制値では野菜などについて500 Bq /kgとされました。
問4-2 飲料水や食品中の放射性物質の基準は、新たに定められた暫定規制値において緩和されているようにも思われますが、健康影響に問題はないのでしょうか。
答 食品安全委員会の緊急とりまとめにおいては、線量は原子力発電所事故の発生に伴う放射性物質の環境中への放出という特殊かつ危機的な社会的状況を踏まえたものであり、「通常の状況におけるリスク管理措置の根拠として用いることは適当ではない」としてします。
問4-3 飲食物摂取の暫定規制値については、発がんのリスクについてどのように考慮されているのでしょうか。
答 食品安全委員の緊急とりまとめにおいては、「発がん性のリスクについての詳細な検討は行えていない」としています。
問 4-4 食品に関する放射能検査は、すべての食品の種類について、市町村毎に行われているのでしょうか。
答 検査の対象品目は、「重点的にチェックする食品」であるホウレンソウ、シュンギク、カキナ、ミズナ、コマツナ、乳、その他国が別途指示する品目、および「このほかの対象品目」としています。検査の地域については、自治体がその県域を適切な区域に分け、採取するものとされています。
問4-5 野菜などは、洗えば公表された放射線量より低くなりますか。
答 洗うことにより放射性物質は減少しますが、公表された放射線量は食品中の放射性物質の検査結果は洗浄した野菜などについて実施されたもので、洗う前の値はそれよりは高くなっていることになります。
問4-6 放射性物質で汚染された飲食物を摂取した場合の被ばく量は、どのように計算されますか。
答 飲食物中の放射性物質の指標値であるBq(ベクレル)に「換算係数」を掛けて、被ばく線量を示すSv(シーベルト)に換算します。
5被ばく線量の推計と縮減の実際
問7-1 放射線の被ばく量を知りたいのですが、どのように計算できますか。
答 下記の例のように大気中や環境中の放射性物質、飲食物中の放射線量などを推計します。
http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i14
問7-2 サーベイメータで身体を表面から計測することにより、健康に影響を与えた放射線の被ばく量を知ることができますか。
答 健康への影響は外部被ばくと内部被ばくの累積によるものであり、その被ばく量をサーベイメータのみで知ることはできません。
問7-3 原子力発電所等の事故における一般住民に対する健康影響調査はどのようになされているのでしょうか。
答 行動調査などによる被ばく線量の推計、がん検診などの追跡調査、心の不安へのサポートを含めた健康相談などが実施されます。
問7-4 放射線の被ばく線量についてできるだけ少なくしたいのですが、どのような工夫が考えられますか。
答 家の玄関・庭・建物・道路などを洗う、地表の土や草を取り除く、雨に濡れない、体が雨に濡れまたは土で汚れたら拭く・洗う、洋服を洗濯する、家の中を拭き掃除する、飲食物の種類や生産地などについて公表データを参考にして選択するなどが考えられます。
放射線の健康影響に関する相談に対応するためのQ&A 詳細版
http://www.support-hc.com/index.php?go=76VJoQ