放射線健康影響相談Q&A
健康危機管理ニュース
放射線の健康影響に関する相談に対応するためのQ&A 平成23年7月28日
茨城県筑西保健所長 緒方剛
(健康危機管理評価研究班 平成20年度 放射線健康危機分野分担、日本公衆衛生学会評議員)
一部監修 児玉和紀 放射線影響研究所主席研究員
利益相反 上記以外に国または電力会社などから放射線に関して研究費その他の便宜を供与されたことはありません。
本ページのアドレス http://www.support-hc.com/index.php?go=76VJoQ
回答の要旨 http://www.support-hc.com/index.php?go=DGvzNZ
原子力発電所事故の健康影響ニュース 下記ページに掲載
http://www.support-hc.com/index.php?go=TdqVqn
厚生労働省地域保健室は本年3月18日に都道府県等に対して「放射線の影響に関する健康相談について」の事務連絡を行い、原子力発電所事故の健康影響が心配である等の理由で、健康相談を希望する方などに対して、「保健所等において住民の方々からの相談状況に応じた体制の整備を図るなど、適切に対応していただく」よう依頼をしています。本Q&Aは保健所等の職員が住民の相談に対して適切に対応することに資することを目的として、作成したものです。例えば、国の食品安全委員会は「緊急時の対応とそうでない時の対応を混同するようなことがないよう、リスクコミュニケーションについても関係者は努力する必要がある」としており、適切なリスクコミュニケーションは重要であると考えます。
なお、問および答は現時点で暫定的に作成、整理したものであり、今後の状況の変化や知見の集積などにより修正される場合があります。
目次 1 被ばくと健康、2 被ばく線量による健康影響、3 被ばく線量の基準と管理、
4飲食物による被ばく、5被ばく線量の推計と縮減の実際
1 被ばくと健康
問1-1 事故に関連して、放射線にはどのような経路で被ばくする可能性がありますか。
答 通常でも、日本人は年間0.8~1.25mSv(ミリシーベルト)程度の量の自然放射線を受けています。
事故に関連しては、主に放出された放射性物質から出る放射線によって被ばくします。
まず、放射性物質が大気中を拡散し、または地表面や草、建物などに沈着して環境中にとどまり、周囲に放射線を出すことにより、外部から被ばくします。これらの放射性物質の量は、風向き、降雨や地面の状況などの影響を受けます。体表面や衣服に付着した放射性物質は、洗ったりふき取ったりすることにより取り除くことができます。なお、時間が経つと土壌や地下水の汚染が進みます。
次に、大気中の放射性物質は、直接吸入することがあります。また、放射性物質の沈着した飲料水や農作物を摂取することにより、放射性物質が体内に取りこまれることがあります。これらの体内に取り込まれた放射性物質によって、内部から被ばくします。
問1-2 被ばくの原因となる放射性物質には、どのような種類がありますか。
答 ヨウ素、セシウムなどの同位元素が放射線を放出します。
ヨウ素(I)131は半減期が約8日で、崩壊する際にβ(ベータ)線を出します。甲状腺に取り込まれ、チェルノブイリでは小児などの甲状腺がんを起こしました。
セシウム(Cs)のうち、セシウム137は半減期が約30年で、セシウム134は半減期が約2年で、β(ベータ)線とγ(ガンマ)線を出します。人体では筋肉に取り込まれ、排尿、代謝により体外に排泄され、数十日で半減します。
ストロンチウム(Sr)90は半減期が約30年で、崩壊する際にβ(ベータ)線を出します。骨に集まりやすい性質があります。
問1-3 放射線被ばくによって、なぜがんが発生するのですか。
答 放射線は細胞にあるDNA(遺伝子)に損傷を与えます。その場合、細胞が死ぬことも、DNAが修復されることもありますが、このほかDNAが誤って修復されてがんになり得る細胞へと変化することがあります。
問1-4 被ばく量は、発電所からの距離によって決まるのですか。
答 放射性物質による被ばくにおいては、線量は原子力発電所からの距離以外に、風向き、降雨や地面の状況などの影響を受けます。放射性物質の飛散、落下が増加したと思われる日の状況などによって、発電所から西北方向や南方向では被ばく量が多く、また千葉・茨城・埼玉県境部では周囲より汚染されたホット・スポットが見られるようです。さらに、同じ地域においても風や水の流れによって、局所的に線量が高い場所があります。
2 被ばく線量による健康影響
問2-1 100mSv(ミリシーベルト)あるいはそれ以下のような低線量の放射線によって健康影響はあるのでしょうか、ないのでしょうか。
答 ICRPの勧告では、放射線の健康影響を「確定的影響」と「確率的影響」に分けています。
このうち、「確定的影響」は障害が発生する発生確率がゼロとなる線量(しきい線量)があり、被ばく線量をしきい線量以下に制限することにより防止することができるものです。「確定的影響」には皮膚症状、胎児奇形、死亡等があります。勧告では線量が約100mGy(ミリグレイ) (γ線などではmSv(ミリシーベルト)に相当)の線量域までは臨床的に意味のある機能障害を示さないとされています。
一方、「確率的影響」においては被ばく線量の増加に伴い発生率が増加し、発生確率がゼロとなる線量(しきい線量)は存在しないとされています。「確率的影響」にはがん、遺伝的障害等があります。2007年勧告では「確率的影響」に関し、過剰のがんと遺伝的影響による集団の致死リスク係数は、1Sv(シーベルト=1000mSv)当たり約5%とされています。
ICRPが採用するこのような線量と発生率の直線関係は、100mSvより低い領域では現段階ではデータが不足しているため証明も否定もされておらず、今後の究明が待たれます。したがって、個人や社会としては、不明であることを前提として諸般の事情を考慮しつつ対応するべきであると考えます。
なお、広島大学のサイトには、「急性の症状を引き起こさないほどの放射線被ばくであっても、癌や白血病に罹患する可能性が増加します。しかし、50mSv以下の線量でも癌のリスクが有意に増加するのかどうか、未だ判っていません。」との記載があります。国立がんセンターのサイトには、「200 ミリシーベルト以下の低線量域では、広島・長崎の原爆被ばく者においても明らかな発がんリスクの増加は確認されていません。しかし、低線量域においても発がんリスクが被ばく線量と直線的に比例して増加すると仮定することにより、発がんリスクの増加の程度を推定することができます。すなわち、100 ミリシーベルト(1000 ミリシーベルトの10 分の1)では、60 パーセントの増加分が10分の1 の6 パーセントとなり、リスク比は1.06 倍となります。広島長崎の被ばくは一回の瞬時被ばくであるのに対し、曝露が長期にわたる場合、同じ累積線量による発がん影響は少なくなると考えられます。」との記載があります。放射線影響研究所の報告では0-150 mGyの範囲でも有意に固形がん罹患が増加していることを確認しており、そのサイトには、「リスクは被曝した放射線の量に比例すると考えられています。がんのリスクは被曝線量に直線的で閾値がないという考え(国際放射線防護委員会などの考え)で計算すると、100ミリシーベルトでは約1.05倍、10ミリシーベルトでは約1.005倍と予想されます。ただし統計学的には、約150ミリシーベルト以下では、がんの頻度における増加は確認されていません。」との記載があります。
http://aboutradiation.hiroshima-u.ac.jp/about/faq_answer.html#a11
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/shiryo3.pdf
http://www.rerf.jp/rerfrad.pdf
食品安全委員会し「100 mSv未満の線量における放射線の健康影響については、疫学研究で健康影響がみられたとの報告はあるが、信頼のおけるデータと判断することは困難であった。種々の要因により、低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証し得ていない可能性を否定することはできないが、追加の累積線量として100 mSv未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった。」としています。
問2-2 ICRPが採用する確率的影響の考え方を採用する場合、集団における健康影響はどのような計算になるのでしょうか。
答 2007年勧告では「確率的影響」に関し、過剰のがんと遺伝的影響による集団の致死リスク係数は、1シーベルト当たり約5%とされています。例えば、仮に人口100万人の集団が年間10mSv(ミリシーベルト)被ばくしたと仮定すると、計算上は集団の被ばく総量は10mSv X1,000,000=10,000Svとなり、「確率的影響」によるがんなどの致死リスクはICRPの考え方によれば 10,000 X 5/100 =500人ということになります。しかし、この考え方はまだ証明されたものではない仮説であり、また曝露が長期にわたることにより短期の暴露よりも影響が少なくなる可能性があります。
問2-3 日本人の二人に一人ががんになるのですから、放射線によってがんが数%増えたところでたいしたことはないと考えてよいですか。また、生活習慣によってもがんなどの疾病は増えるので、同様に考えてよいでしょうか。国立がんセンターのサイトからみて、放射線は生活習慣より低いリスクと考えてよいですか。http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/cancer_risk.pdf
答 生活習慣によるがんの増加と放射線被ばくによるがんの増加を比較することは、リスクの程度を理解する上では役立つと考えられます。しかし、放射線被ばくによる健康障害は、食中毒、化学物質中毒や交通事故と同様に自ら選択したものではなく、個人にメリットもなく、また個人の選択により予防することが難しいので、これを生活習慣病と同一の考え方で扱うことは必ずしも適切ではないと考えます。
年齢が高くなるとがんにり患する率は増える一方余命は短くなるので、高齢者においては放射線の晩発的影響は比較的少ないが、若年者においてはがんり患の影響は大きいと考えられます。がんセンターの表の元データとして示されている下記プレストンの表を見ると、若年者の過剰リスクが3倍となっているように見えるにもかかわらず、そのことが反映されていません。
http://www.rerf.or.jp/radefx/late/cancrisk.html
また、現存被ばくは原爆と異なり被ばくが累積されますが、表では示された被ばく量が年間なのか積算なのか明確ではありません。
問2-4 子供は放射線の健康影響について大人と同等と考えてよいですか。
答 若年者に対する放射線の健康影響は、外部被ばくにおいても内部被ばくにおいても、がんのリスクが大人に比べて数倍高いと考えられています。
問2-5 メディアなどで「この被ばく線量毎時OOμSv(マイクロシーベルト)はレントゲン検査O枚に相当し、健康影響はない」などのコメントがなされることがありますが、このような比較はできるのでしょうか。
答 わかりやすくする意図での表現かもしれませんが、放射線の線源や種類、被ばくの形態が異なり、また毎時の被ばく線量は一月、一年などの期間に積算して換算しない限りレントゲン検査の線量などと比較することの意義は乏しいと思われ、その意味で誤解を招く可能性のある表現であると考えられます。
問2-6 事故に関連して「このレベルの線量では、ただちに健康に影響を及ぼすことはありません。」との報道がありましたが、「ただちに」とはどういう意味ですか。
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201103/19_p.html
答 「ただちに」の意味についてはいろいろな可能性が考えられます。
一つ目に、放射線の被ばく量は時間当たりの線量と時間の掛け算になりますから、短時間だけ被ばくしてその後に外部被ばくや内部被ばくがないことを想定する場合には、確定的影響(問2-1参照)はありません。
二つ目に、100mSv(ミリシーベルト)程度における放射線の健康影響は、数年後から数十年が経過してから現れるがんや遺伝的影響などの晩発的影響であり、すぐに症状として現れるのではありません。
三つ目に、被ばくによるがんなどの影響は確率的なものであり、例えば100mSvの被ばくによるがんになる危険性は200人のうち1人程度の確率とされています。
問2-7 臨床医師から、数mSv(ミリシーベルト)ないし数十mSvの放射線は医療において用いられるレベルであるから、気にしなくてよいという話を聞きましたが、このような考え方を一般人に適用することはできるでしょうか。
答 医学の診断や治療に使用される薬剤、手術、放射線は、人体に有害な影響をもたらす可能性がありますが、同時に身体に対してそれ以上の有益な効果も得られることが期待されることから、違法性が阻却され、社会的に是認されているものです。これらを健康な人に対して目的がなく用いることは、正当化されません。
ICRP(国際放射線防護委員会)は、放射線被ばくを「職業被ばく」、「公衆(一般人)被ばく」、「患者の医療被ばく」に分類して評価しており、国内法令もこれに準拠しています。「医療被ばく」は医師等の責任のもとに管理されており、通常時においても1mSvという「線量限度」は適用されません。したがって、このような「医療被ばく」の評価の考え方を健康な一般人にそのまま適用することは必ずしも適切ではないと考えられます。
問2-8 健康影響に関するパンフレットを見たところ、「安全です」「心配はいりません」と書いてありましたが、その根拠が記載されていないため不安です。
答 健康影響に関して情報を提供する際には、単に結論を記すだけでなく、情報や根拠を十分開示すること、安全なデータだけではなく危険を示唆するデータや未だ明らかとなっていない研究中の事項についてもアナウンスすることが、適切なご理解をしていただくため役に立つと考えます。
3 被ばく線量の基準と管理
問3-1 我が国や他国における放射線防護の規制は、どのような考え方(標準)に依っていますか。
答 我が国における放射線防護に関する技術的基準の考え方は、国際放射線防護委員会(ICRP)の主勧告における考え方を尊重し、現在の我が国の放射線安全規制は、ICRP1990年勧告を取り入れています。放射線防護およびその規制において、我が国では具体的には、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」や労働安全衛生法などにICRP勧告の考え方が取り入れられています。
ICRPは放射線防護に関して2007年に1990年勧告に代わる新たな勧告を公表しました。文部科学省の放射線審議会基本部会は、その2007年勧告の国内制度等への取入れについて審議し第二次中間報告としています(放射線審議会基本部会「国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについて」第二次中間報告2011年1月)。このように、放射線防護およびその規制においてICRP勧告は重要な役割を果たしています。
問3-2 我が国や他国において、一般人の放射線防護のため放射線量は通常はどのレベルに規制されていますか。
答 ICRP(国際放射線防護委員会)勧告では被ばくのカテゴリーを、被ばくによる利益や管理状況などにより「公衆被ばく」、「職業被ばく」、「医療被ばく」に分けており、我が国では「職業被ばく」については労働安全衛生法に、「医療被ばく」については医療法などに定めがあります。
ICRPの勧告では、一般人の「公衆被ばく」に関して、計画被ばく状況(通常の線源の運用に伴う状況)では「線量限度」が適用されるとしています。「線量限度」は、個人の被ばく(累積)線量を制限するために設定された値で、全ての被ばく源(医療被ばく、自然放射線被ばくを除く)からの線量の合計を制限するものです。ただし確率的影響(問2-1参照)に関してはしきい値線量がないとされているため、被ばく線量を合理的に達成できる限り低く制限することによって、その発生確率を容認できるレベルまで制限することとしています。その限度は実効線量 年間1mSv(ミリシーベルト)(特別な状況のみ年間1mSvを超えることも許容されるが、5年間の平均で1mSv )としています。
日本の規制もこのような考え方に準拠しています。例えば放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則第19条第1項および平成17年文部科学省告示第74号第14条によれば、事業省の敷地境界における排気、排水中の線量限度は、実効線量が「1年間につき1ミリシーベルト」と定められています。また、同規則第14条第1項および同告示第10条によれば、放射線発生装置の使用施設などの敷地境界の線量限度は、「実効線量が3月間につき250マイクロシーベルト」とされています。
問3-3 一般人の通常の線量限度が年間1mSv(ミリシーベルト)であるのに、事故後は年間20mSvといった高い線量をなぜ設定することができるのですか。
答 ICRP(国際放射線防護委員会)勧告では被ばくのカテゴリーを、「公衆被ばく」、「職業被ばく」、「医療被ばく」に分けています。我が国でも不特定の一般人の被ばくと別に、「職業被ばく」については労働安全衛生法による管理区域や線量限度についての定めがあります。
次に、ICRP勧告は「防護の最適化の原則」として、 「被ばくの生じる可能性、被ばくする人の数及び彼らの個人線量の大きさは、すべての経済的及び社会的要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保つべきである。」としています。
そして、ICRP勧告では今回の事故のような「緊急時被ばく状況」や事故後に長期間受ける被ばくなどの「現存被ばく状況」においては「線量制限」の値でなく、「参考レベル」が線源関連の制限として用いられることとなっています。「参考レベル」は3つのバンドで示されており、このうち年間「1~20mSv(ミリシーベルト)以下」は 個人が直接利益を受ける状況(計画被ばく状況の職業被ばく、事故後の復旧段階の被ばくなど)に適用され、年間「20mSv~100mSv以下」 は、被ばく低減に係る対策が崩壊している状況(緊急事態における被ばく低減のための対策など)に適用されます。
さらに、ICRPは福島の原子力発電所事故に関して3月21日にコメントを出し、福島を含めて「緊急時被ばく状況」における「参考レベル」として引き続き年間「20mSv~100mSv以下」とし、放射線源が制御できた後は「1~20mSv以下」とし、長期目標を年間1mSvとすべきことを述べています。
これらは、通常時の規制ではなく、あくまでも緊急時における経済的及び社会的要因を考慮に入れた規制であることに留意する必要があります。
問3-4 学校の校舎や校庭の利用の基準として屋外の線量が3.8μSv/時間(毎時マイクロシーベルト)としているのは、どのような考え方によるのでしょうか。その場合、児童が受ける線量は年間20mSv(ミリシーベルト)を超えないのでしょうか。
答 ICRP(国際放射線防護委員会)は「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして、1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」としています。これは、平常時の1mSvの線量制限とは異なる「緊急時被ばく状況」での規制です。
原子力災害対策本部では4月19日に、この「参考レベル」を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であるとしました。また、児童生徒の1日8時間の屋外活動の生活パターンを想定し、校庭・園庭で3.8μSv/時間未満の空間線量率が測定された場合平常どおり利用をして差し支えないとしました。
平常時における1mSvの線量制限が医療被ばく、自然放射線被ばくを除く全ての被ばく源からの線量の合計を制限するのに対し、参考レベルは線源関連の制限として用いられることとなっています。したがって、呼吸、飲食物によって取り込まれた放射性物質による内部被ばくと学校などにおける外部被ばくとを合計した場合、年間20mSvを超える可能性もあります。なお、日本医師会は「1~20 ミリシーベルトを最大値の20 ミリシーベルトとして扱った科学的根拠が不明確である。また成人と比較し、成長期にある子どもたちの放射線感受性の高さを考慮すると、国の対応はより慎重であるべきと考える。」、「国ができうる最速・最大の方法で、子どもたちの放射線被曝量の減少に努めることを強く求めるものである。」との見解を示しています。
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20110512_31.pdf
文部科学省は5月27日に「福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応」を示し、福島県内の全学校等に積算線量計を配布するとともに、
学校において児童生徒等が受ける線量について当面年間1ミリシーベルト以下を目指すことや、校庭・園庭における土壌に関して児童生徒等の受ける線量の低減策を講じる設置者に対し財政的支援を行うこと(対象は空間線量率が毎時1マイクロシーベルト以上の学校)としました。
福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について 文部科学省
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1306590.htm
ただし、ホット・スポットを有する千葉県、茨城県、埼玉県などに対しては、このような対応は行われていません。
問3-5 放射線管理区域とは、放射線量がどの程度の場所を言うのですか。
答 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則第1条や労働安全衛生法に基づく電離放射線障害防止規則においては、外部放射線線量、空気中の放射性物質、または放射性物質の表面密度などが基準を超えるおそれがある場所を、「管理区域」としています。放射線量は、例えば電離放射線障害防止規則においては外部放射線と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3か月で1.3mSv(ミリシーベルト)であり、事業者は必要のない者を「管理区域」に立ち入らせてはならないこととなっています。この被ばく線量は毎時約0.6μSv/hに相当し、福島県東部・中部、茨城県の一部などではこのレベルに達していると考えられます。
4飲食物による被ばく
問4-1 飲料水や食品中の放射性物質に関する基準は、福島の事故後に変更はあったのでしょうか。
答 飲料水については、これまで水道法に基づく水質基準には定めがなく、また水道法が準拠するWHOの基準においてはヨウ素及びセシウムについて平時に10Bq/l(1リットル当たりのベクレル)としてきました。原子力発電所の事故後の3月17日に厚生労働省は飲食物摂取制限に関する指標を定め、ヨウ素131は300Bq/l(乳児の飲用については100Bq/l)を、セシウムは200 Bq /lを暫定規制値としました。
食品については、これまで我が国は、セシウムについて370Bq/kg(1キログラム当たりのベクレル)超える食品については食品衛生法違反として輸入制限を実施してきました。厚生労働省は3月17日に定めた上記飲食物摂取制限に関する指標において、ヨウ素131は野菜類について2,000Bq/kgとし、セシウムは野菜、穀類、肉などについて500 Bq /kgとする暫定規制値とし、これを上回る食品を食品衛生法で規制することとしました。4月4日に薬事・食品衛生審議会は、食品安全委員会や原子力安全委員会の意見を踏まえ、「現状においては、この暫定規制値を維持すべきもの」としました。
問4-2 飲料水や食品中の放射性物質の基準は、新たに定められた暫定規制値において緩和されているようにも思われますが、健康影響に問題はないのでしょうか。
答 食品安全委員会は、震災後の本年3月29日に「放射性物質に関する緊急とりまとめ」を公表し、飲食物摂取制限に関する指標の根拠となった線量について、ICRPの勧告などを踏まえて、ヨウ素に関しては年間50 mSv(ミリシーベルト) とする甲状腺等価線量とし、セシウムに関しては実効線量として年間5 mSvとし、これらについて食品由来の放射線曝露を防ぐ上で相当な安全性を見込んだものであるなどとしました。そして4月1日に原子力災害対策本部は、この「緊急とりまとめ」及び原子力安全委員会の助言を踏まえ、当分の間、現行の暫定規制値を維持することが適当である旨の見解を示しました。
一方、食品安全委員会は緊急とりまとめにおいて、原子力発電所事故の発生に伴う放射性物質の環境中への放出という特殊かつ危機的な社会的状況を踏まえたものであり、「通常の状況におけるリスク管理措置の根拠として用いることは適当ではないことに十分留意する必要がある」としており、これはあくまでも緊急時の対応として示されたものです。
食品安全委員会はさらに「緊急時の対応とそうでない時の対応を混同するようなことがないよう、リスクコミュニケーションについても関係者は努力する必要がある」としております。
食品安全委員会は7月26日に放射性物質に係る食品健康影響評価を公表し、「放射線による悪影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積線量として、おおよそ100 mSv以上と判断した。なお、小児に関しては、より影響を受けやすい可能性(甲状腺がんや白血病)があると考えられた。」とし、「評価結果が通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における追加の累積線量であることを考慮し、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食品摂取の実態等を踏まえて管理を行うべきである。」としています。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110726sfc
問4-3 食品に関する放射能検査は、すべての食品の種類について、市町村毎に行われているのでしょうか。
答 国の原子力災害対策本部が示した地方自治体の検査計画によれば、対象品目の選定について、暫定規制値を超える放射性物質が検出された品目 野菜類等(露地物を優先して選択)、乳、水産物その他が指定されています。
魚、たけのこ、しいたけ、茶、山菜、ウメなども検査され、一部で検出されています。今後耕された土壌中の放射性物質が米、野菜、果実などの作物に吸収されて、検出される可能性があると考えられます。
また、検査の地域については、地域的な広がりを把握するため、農作物については農業生産等の実態や産地表示の状況も踏まえて、自治体がその県域を適切な区域に分け、当該区域毎に複数市町村で採取するものとされています。したがって、検査は市町村毎にあるいは全食品を網羅しているわけではないと考えられます。
なお、牛乳や乳製品は、表示義務については原乳の原産地ではなく乳業工場の所在地となっていることから、今後これらの消費が低迷することが懸念されます。
問4-4 野菜などは、洗えば公表された放射線量より低くなりますか。
答 洗うことにより放射性物質は減少しますが、公表された放射線量は食品中の放射性物質の検査結果は洗浄した野菜などについて実施されたもので、洗う前の値はそれよりは高くなっていることになります。
問4-5 放射性物質で汚染された飲食物を摂取した場合の被ばく量は、どのように計算されますか。
答 飲食物中の放射性物質の指標値に使われているBq(ベクレル)は放射能の単位で、一秒間あたりの放射性物質の崩壊数です。一方Sv(シーベルト)は、被ばく線量の単位です。
たとえば、セシウム(Cs)134が1kg中200Bq(ベクレル)、セシウム137も1kg中200Bq(ベクレル)の飲食物を、成人が1キログラム摂取したとします。体内に取り込まれたセシウム134とセシウム137は、それぞれ200Bqです。成人の実効線量への「換算係数」は下記サイト36ページの表より、セシウム134が1.9X10-5 mSv/Bq =0.019μSv/Bq、セシウム137が1.3X10-4 mSv/Bq 0.13μSv/Bqです。したがって被ばく線量は、セシウム134が0.019 X 200 =3.8μSv セシウム137が0.13 X 200 = 26μSvで、合計29.8μSvとなります。これは一日の被ばくだけでは多い線量ではありませんが、もし一年間毎日摂取し続けた場合29.8μSv X365=約11mSvとなります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf
また、ヨウ素(I)131が1kg中500Bq(ベクレル)である飲食物を、幼児が1キログラム摂取したとすると、体内に取り込まれたヨウ素131は500Bqです。乳児のヨウ素131の甲状腺等価線量への「換算係数」は、表より1.5X10-3 mSv/Bq (ベクレル当たりミリシーベルト)=1.5 μSv/Bq(ベクレル当たりマイクロシーベルト)です。したがって、被ばくした甲状腺等価線量は 1.5X 500= 750μSvとなります。もし一年間毎日摂取し続けた場合750μSv X365=約270mSvとなり、WHOの基準である50mSvを超過することになります。
なお、健康への影響を考える場合には、飲食物による被ばくの他に、外部被ばくや呼吸による取り込みをあわせて考える必要があり、これらを合計した被ばく量をできる限り低くし、1mSvに近づける努力をすることが望ましいと考えます。
5被ばく線量の推計と縮減の実際
問5-1 放射線の被ばく量を知りたいのですが、どのように計算できますか。
答 下記の例のように大気中や環境中の放射性物質からの放射線については、行動調査に基づき、当該地域の居住期間および地域で観測された放射線量から、内部被ばくも考慮しながら推計します。なお、小児においては、計測を行うモニタリングポストよりも地表面に近いことや土やほこりで汚染される可能性があることから、計算上注意が必要です。飲食物中の放射線量については、摂取された飲食物の種類・量と公表された測定値から推計します。被ばく量は、外部被ばくと、呼吸、飲食物による内部被ばくの総量になります。
http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i14
http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food2/servlet/food2_in
問5-2 サーベイメータで身体を表面から計測することにより、健康に影響を与えた放射線の被ばく量を知ることができますか。
答 サーベイメータにより事故直後の放射性物質の付着による表面汚染などを知ることができます。放射線の健康への影響は外部被ばくと内部被ばくの累積によるものであり、その被ばく量をサーベイメータで知ることはできません。内部被ばくの推計にはホールボディカウンターなどが用いられます。この場合、体内に残存するγ線放射線量を測定し、放射性物質の接種日を基に推計します。
問5-3 原子力発電所等の事故における一般住民に対する健康影響調査はどのようになされているのでしょうか。
答 原子爆弾被爆者に対しては、放射線影響研究所などが健康影響を評価してきています。
茨城県東海村の臨界事故における周辺住民の健康影響については、放射線医学総合研究所などが数十年の期間を予定して追跡調査を継続しており、調査項目は一般の循環器・がん検診と同様の項目です。ただし100mSv(ミリシーベルト)以下のような低線量被ばくにおいては、放射線の「確定的影響」はないために自覚症状や一般血液検査での異常は一般に認められません。もし放射線の「確率的影響」があるならば、晩発的ながんの発症率の増大によって把握されると考えられます。なお、住民の心の不安へのサポートを含めた健康相談も併せて実施されています。
一方、健康影響を評価するためには、住民の被ばく線量の推計が必要であり、行動調査などが実施されます。今回の事故においては、放射性物質による被ばくが主で東海村の事故とは被曝の形態は異なりますが、研究機関と行政の連携のもとに、今後住民に対する健康影響調査が必要と考えられます。原子力災害対策本部が5月に示した「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」では、「住民の長期的な健康管理を行う上で必要となる住民が受けた放射線量の評価に関する関係者の取組」が示されました。さらに、福島県は県民健康調査を実施しています。http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet;jsessionid=1407E28DAA35DBC3A995B929BFEFF786?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24287
問5-4 放射線の被ばく線量についてできるだけ少なくしたいのですが、どのような工夫が考えられますか。
答 発電所から放出され風で拡散されて空気中にあった放射性物質は、その後に自然にまたは雨などによって地面や草木などに落下・付着し、また側溝、吹きだまりなどに集まったと考えられます。このため、家の玄関・庭・建物・道路などを洗う、地表の土や草を取り除く、雨に濡れない、体が雨に濡れまたは土で汚れたら拭く・洗う、外出・屋外の運動を減らす、洋服を洗濯する、家の中を拭き掃除するなどが考えられます。
飲食物については、その種類や生産地、製造日などについて公表された測定データを参考にして選択します。ただし、ヨウ素、セシウムは測定されていますが、ストロンチウムはまだ公表されていません。
なお、長期汚染地域に居住する人々の防護に対するICRP勧告の適用について、日本アイソトープ協会が翻訳を行っており、南東北、関東に住む方にとって有用と考えられます。
http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15092,76,1,html